遺言書の種類

民法は遺言者の真意を確保するため、遺言の作成については極めて厳格な方式を要求し、その方式に従わない遺言には効力を認めておりません。
民法の定める遺言の方式には、次のような種類があります。

 

@普通方式遺言

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

 

A特別方式遺言

  • 死亡危急者の遺言
  • 船舶遭難者の遺言
  • 伝染病隔離者の遺言
  • 在船者の遺言

 

このうちA特別方式遺言は、特殊な状況下で普通方式遺言をすることができないような場合について要件を緩和したものですから、通常の日常生活の中で遺言をしようとする場合には普通方式遺言の方式で作成しなければなりません。

 

それでは普通方式遺言について詳しく説明します。

自筆証書遺言

特長
遺言者が財産目録以外の全文。日付・氏名を自書し、署名の下に捺印して作成する遺言です。簡単といえば非常に簡単ですが、方式を厳格に守らなければ遺言全体が無効になってしまいますので、その意味では細心の注意が必要です。
作成上の注意点は以下のとおりです。

  • 筆記用具:鉛筆・万年筆その他、「自筆」できるものなら何でも結構です。ただし、変造等を防いだり、保存という面を考えると鉛筆は不適当です。
  • 用紙:どのような用紙でも構いませんが保存に適した用紙を用いるべきです。
  • 印鑑:三文判でも結構ですが、偽造・変造を防ぐ意味から実印などきちんとした印鑑を用いるべきでしょう。なお指印でもよいという最高裁の判例もでていますが、指印は避けたほうがよいでしょう。
  • 書式:書式は自由で、縦書きでも横書きでも結構ですし、文字も判読可能であれば、日本語でも外国語でも結構です。ただし金額等重要な数字については「壱、弐、参、・・・」といった漢字を使ったほうがよいでしょう。封筒に入れる必要はありませんが、封筒に入れて封印しておけば、死後、家庭裁判所での開封手続きをとる必要があるので、変造を防ぐことができ、また内容を秘密にしておくことができます。
  • 全文自署:「遺言の全文」「日付」「氏名」は必ず全部自分で書かなければなりません。ただし別紙で財産目録を添付する場合はその「財産目録」に関してのみワープロ打ちや書類そのものを貼付することは可能です。その場合全ての財産目録に氏名と捺印が必要となります。その他録音テープやビデオを用いた遺言書も無効です。
  • 日付:遺言能力の有無判断の基準時期を明確にするためおよび複数の遺言書の前後を決定するためにきわめて重要なものですから、これも「特定の日」をきちんと自書しなければなりません。日付の記載がなかったり、「令和2年3月吉日」といった特定できない日を記載したり、また、日付印を用いたりすると遺言書全体が無効になってしまいます。なお、判例では「還暦祝賀の夜」といった形でその日が特定できれば有効であると解されていますが、このような記載は避け、令和〇〇年〇月〇日と明確に記載するようにしてください。
  • 氏名の記載:遺言者が誰であるか、他人と区別できる程度であれば十分ですから通称・雅号・芸名でもよいとされています。

長所と短所
長所としては、書面の作成が容易であること、証人の立会いが不要なので遺言の存在と内容を秘密にしておけることなどが挙げられますが、短所としては、保管について注意しなければならないこと(法改正により、令和2年7月10日より法務局での保管が可能となります)、紛失や偽造のおそれがあること、遺言の内容について要件の不備により無効となるおそれがあることなどが挙げられます。

公正証書遺言

特長
遺言者が証人2人と共に公証役場に行って作成します。外出できない状態のときは公証人が出張してくれます。
公正証書遺言の要件は次のとおりです。

  • 証人2人以上の立会い
  • 遺言者が、遺言の趣旨を公証人に口述(口がきけない人の場合は、通訳人の通訳または自書)
  • 公証人が口述(口がきけない人の場合は、通訳人の通訳または自書)を筆記した内容を遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させる(遺言者または承認が耳が聞こえない人の場合は、筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者または証人に伝える方法も可)
  • 遺言者・証人は、筆記の正確なことを承認したうえ、各自これに署名捺印(署名することができない者がいるときは、公証人がその自由を付記して署名にかえることができる)。

以上の方式に従って証書が作成された旨を、公証人が付記して、署名捺印という手続きで作成されます。なお、@未成年者、A推定相続人、受遺者およびその配偶者ならびに直系血族、B公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および雇人は承認になることができません。

 

長所と短所
長所としては、自署が要件とされていないので文字が書けない者でも作成することができること、原本が公証役場に保管されるので保管という意味では最も安全確実といえること。短所としては2人以上の証人の立会いが必要ですから内容を秘密にしておけないこと、遺産の価格やその内容に応じて公証人の手数料が決まるので遺産が多い場合には費用が高くなることが挙げられます。

秘密証書遺言

特長
秘密証書遺言は、遺言書そのものの方式ではなく、いわば遺言書を秘密に保管するための方式、すなわち、遺言書が封入されていることを公正証書の手続きで公証しておくというものです。したがって、遺言の文言は自筆である必要はなく代筆でもワープロで打ったものでも構いません。ただし、加除変更の仕方は自筆証書遺言の場合と同一です。
秘密証書遺言の要件は次のとおりです。

  • 遺言者の署名
  • 遺言者が封書を封入、証書と同じ印章で封印
  • 証人2人以上の立会いの下で、この封書を公証人に提出し、これが自分の遺言書であること、証書を書いた者の氏名・住所を申述(口がきけない人の場合は、通訳人の通訳または封紙に自署)
  • 公証人が、遺言者の申述と日付を(通訳人の通訳による場合はその旨)封紙に記載し、遺言者・証人・公証人が署名・捺印

以上の方式に従って証書が作成された旨を、公証人が付記して署名押印という手続きで作成されます。
なお秘密証書遺言は、秘密証書遺言としては無効でも、自筆証書遺言としての要件が備わっていれば自筆証書遺言として認められます。

 

長所と短所
長所としては、遺言者の署名と捺印が要求されているだけなので、代筆やワープロにより作成されたものでもよく、書面の作成が容易であること、証人に遺言の内容がわからないため、秘密が保たれること、公証人の手数料が安価であること。短所としては原本が遺言者に渡されるため保管については注意しなければならないこと、遺言の内容については公証人が点検しないため無効となるおそれがあることなどが挙げられます。

長所と短所を理解したうえで

以上で普通方式遺言の3種類についての説明は終わりになりますが、実際皆様が遺言書を作成される際はこれらの遺言書の長所と短所を理解したうえで、どの遺言書で作成した方がよいか、じっくり検討してからとりかかりましょう。
もし迷われた方は私にご相談ください。どの遺言書があなたにとってベストであるのか、一緒に考えましょう。